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加賀(かか)の潜戸(くけど)

松江市島根町加賀

珍しいT字型トンネルの海食洞を船でくぐり抜けてみましょう。


キーワード:牛切層 海底火山 海食洞 山体崩壊 火山弾


(執筆:石井岳男・山内靖喜)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「加賀」より

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みどころ

写真1

松江市島根町加賀湾東岸北端には、二つの大きな海食洞があります。潜戸鼻とよばれる岬の先端にあるのは新潜戸、その南東約330mにあるのは旧潜戸とよばれております。

新潜戸の主部は切りたった崖を東西方向に、約230mの長さに渡って、直線状にくり抜いている、幅20m、高さ30mのトンネル状の海食洞 です。その中央付近では,ほぼ南北に延びる別の海食洞と交差していて、全体として、東、西および北向きの3つの入口(東戸、西戸、北戸)をもつ珍しい海食洞です(写真1)。 

波が穏やかなときは、加賀港からでる観光船が新潜戸の北側入口(北戸)新潜戸を通り抜けますが、3つの入口から入る漁船も時々通り抜けます。光で洞内も明るく、一見の価値があります。観光船の運行は4月〜10月ですが、波が高いときには新潜戸に入れませんので、波の状況など島根町地域振興財団(TEL:0852-85-9111)に問いあわせると良いでしょう。旧潜戸は奥行き10mほどの海食洞です。ここは亡くなった幼子の慰霊の場として祀られております。

写真2,3

佐波経由で潜戸鼻の上まで車で行けます。駐車場から小径を歩いて灯台に行くと、潜戸鼻=波食棚におりられます。そこには主に灰黄色の軽石からなり、径数10cmの安山岩の角礫を含む軽石質火砕岩が分布しますが、西戸の付近にはその下位の礫岩層が分布します。この礫岩は主に安山岩の角〜亜角礫からなりますが、大きな溶岩の塊も礫として含まれており、最大の岩塊は40cm×40cm×3m(写真2)もあります。この礫岩は、(1)円礫(写真3)、(2)高温酸化で赤色化した岩片、(3)木幹の化石を含んでいます。(1)は海岸か川でつくられますし、(2)は火山から噴出した高温の岩片が空気に触れたことを示しておりますので、これらは陸上か海岸で作られ、その後海底に運ばれたと判断されます。周囲の状況から、この礫岩は火山島の火山が大規模に崩れたものが海に流れ込んだものと考えられております。

写真4,5

北戸の方向にいきますと、軽石質火砕岩を切っている黒色の岩石の帯が数個ありますが、これは玄武岩の岩脈です。しかし、通常の岩脈と違って、ここの岩脈はの縁は凸凹しています(写真4)。それは軽石質火砕岩が固結する前で、まだ多量の水を含んだ状態のときに玄武岩マグマが貫入してきたためです。さらに,このような岩脈の先端につながる火砕岩岩脈(写真5)があります。この岩脈を作っている物質はまわりの軽石質火砕岩と同じものからできておりますが、そのへりには細粒物質の帯ができているので,岩脈の形が良く判るのです。

潜戸鼻の駐車場から佐波方向に戻りますと、車一台が通れる幅の道路トンネルがあります。このトンネル北東の山頂でも変わった噴火口をみることができます。この山頂付近(地点s)にだけ、黒灰〜赤褐色の縞をもつ岩石が分布します。この岩石は溶結したスコリア層です。数カ所でこの縞模様の傾斜方向を調べると、溶結したスコリア層は"じょうご型"の構造をしていることが分かります。このことから、火道中に残っていたスコリアがそれ自身の熱と火道下方からの熱によって溶結したものだと考えられます。また、その北方の海岸(地点b)には、火山豆石と火山弾を多く含む地層も分布しておりり、噴火口近くに堆積したことを想像させます。


アクセス

松江駅前より「マリンゲートしまね」行きのバスで終点に行き、「笠浦」行きに乗り換えて「マリンプラザ前」(観光船乗り場)下車。

潜戸鼻へは、笠浦行きのバスで「佐波」で下車し、そこから徒歩約2.5km。


関連する情報

島根県自然環境課ホームページ:http://www.pref.shimane.lg.jp/shizenkankyo/


天然記念物などの指定情報

大山隠岐国立公園特別保護区、国指定名勝及び天然記念物。


地質学的な意義

1400万年前頃(中新世)の島根半島は海底で、多くの海底火山が活動しており、とくに加賀と東海岸の笠浦を結んだ線より北側には、巨大な海底火山がありました。この海底火山は深さ数100mの海底に発生し、しだいに成長して火山島になったと考えられております。この海底火山は多くの噴火口をもっており、島根地質百選の「佐波」や「桂島」もそのような噴火口です。上述しましたように円礫や火山豆石が存在することから、佐波一体では、「浅海での噴火」〜「火山島への成長」を想像することができます。

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