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大田市南部の瓦粘土

大田市水上町福原

300万年〜100万年前の湖や平野に堆積した石州瓦の原料の粘土を観察しましょう。

  1. 世界遺産センター
  2. 石州瓦創造広場
  3. 見学地点

キーワード:江津層群 水上層 大江高山火山群 鮮新世 更新世


(推薦:宇野泰光氏)
(執筆:山内靖喜)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「仁万」より

[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義]


みどころ

写真1

県中部の大田市から江津市にかけての地域では瓦の生産が盛んです。とくに、大田市(おおだし)水上(みなかみ)周辺と江津(ごうつ)市都野津(つのづ)周辺には瓦工場が集中しております。それは、瓦の原料である粘土層がこの両地域に分布しているからです。この粘土層は今から300万〜100万年前(後期鮮新世〜前期更新世)に堆積しました。この頃の日本列島は温暖な気候と寒冷な気候が繰り返していました。また、都野津周辺は大きな湾の海岸近くにあり、寒冷期には海面が低下し、平野や沼になり、温暖期には海面が高くなり、浅い海底になり、それぞれに粘土が堆積しました。そのため、都野津周辺には、海底に堆積した粘土(海成粘土)と沼や平野に堆積した粘土(淡水成粘土)が交互に重なり合っておりますが、同じ粘土でもその性質は違い、瓦の原料としては淡水成粘土が適しております。都野津周辺に分布するこれらの地層は都野津層と呼ばれております。

同じ頃、大田市水上町から川本町北部と美郷町北西部にかけての地域に大きな湖があり、そこに粘土や砂礫が堆積しました。この粘土や砂礫からなる地層は水上層と呼ばれております。水上層はほぼ水平に分布しており、粘土層は下部・中部及び上部粘土層の3枚があります。下部粘土層は標高190〜205mを基底とし、厚さ0〜7m、中部粘土層は235〜240mを基底とし、厚さ2〜8m、上部粘土層は標高250m付近を基底とし、一般に厚さは1m以下ですが、小松地周辺のみでは6〜7mあります。各粘土層の間には主に礫層が分布します。なお、理由はよく判っておりませんが、瓦の原料としては下部粘土層は一般にあまり良くありません。

地点3の露頭(写真1)は、農道のカーブ南東側の切り割りです。この法面には、下から礫層(厚さ2m以上、写真2)、砂層(厚さ1m)、火山灰層(厚さ0.1m、)、粘土層(厚さ4m、写真3)及び礫層(厚さ4.2m以上)がほぼ水平に重なっております。粘土層の基底面の標高は205m付近にありますから、この粘土層は下部粘土層になります。また、この粘土層中には厚さ30cm以下の赤紫色の地層が切れ切れに挟まれています(写真3)。この地層は植物遺体が水底に堆積してつくられた泥炭層です。

写真2,3


アクセス

バス:JR大田市駅前より「世界遺産センター」方面行きバスで約30分で「世界遺産センター」まで行く。そこから徒歩約20分。

自家用車:大田市街内で国道9号より国道375号に入り、約2.5km先で右折して県道46号を約10km行くと「石州瓦創造広場」。


関連する情報

文献:服部 仁・鹿野和彦・鈴木隆介・横山勝三・松浦浩久・佐藤博之(1983)三瓶山地域の地質。地域研究報告(5万分の1図幅)、地質調査所、168p。


天然記念物などの指定情報

なし


地質学的な意義

中部粘土層と上部粘土層の間に大江高山火山群の初期噴出物の大家火山灰流堆積物が挟まれており、水上層堆積期に大江高山火山群が活動していることが判ります。また、すぐ近くにある世界遺産の大森銀山の銀鉱脈は大江高山火山群の活動に伴って形成されているので、瓦粘土と銀鉱床は同じ時代の産物といえます。さらに、水上層が堆積した湖は当時の江川を大江高山火山群がせき止めたためにつくられたと考えられています。なお、見学した露頭の一番上に重なる礫層中には、大江高山火山を構成するデイサイトが礫として入っておりませんので、この礫層が堆積したときにはまだ大江高山火山は活動していなかったと考えられます。大江高山火山の噴出物が水上層に重なっているのが観察できるのは、福原南側の標高240mより高い山地です。

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