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笹ヶ谷(ささがたに)鉱山

島根県鹿足郡津和野町大字豊稼(とよか)字石ヶ谷(いしがたに) 地内

江戸時代、国内有数の銅山であると同時に、副産物の亜ヒ酸は「いわみぎんざんねずみとり」の名で全国に流通しました。

A 笹ヶ谷鉱山7番坑 坑道はBの選鉱場へ通じていた。
B 選鉱場や精錬所など笹ヶ谷鉱山の主要施設が存在した場所。鉱山町もこの谷沿いに形成された。
C 笹ヶ谷鉱山鉱床範囲 この範囲に多数の坑口があり、内部でつながっていた。
D 豊稼(とよか)鉱山跡
E 木部(きべ)鉱山跡


キーワード:スカルン鉱床 鹿足層群 亜ヒ酸 鉱毒汚染 鉱害対策事業


(執筆:渡辺勝美)


国土地理院発行1:25000地形図「日原」長門新市」より

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みどころ

写真1:明治以降の鉱山の繁栄を支えた7番坑坑口(鍵は 津和野町役場環境生活課が管理しています.)

 笹ヶ谷鉱山は主に銅を採掘し、少量の銀や亜鉛、副産物としてヒ素を採集していました。
 鉱山の開坑は鎌倉時代と伝えられ、江戸時代は石見銀山代官所支配下の天領になりましたが、直接経営ではなく地元の請負山師制でした。産銅高は、石見銀山配下の他の銅山の合計の3~4倍を誇っていましたが、江戸後期には坑道が深くなって採掘が困難になり、減少しました。一方、この頃から硫砒(りゅうひ)鉄鉱(てっこう)(誉(ほまれ)石(いし)とよばれていた)を焼いて作られる亜ヒ酸が銀山代官所を通して殺鼠剤(さっそざい)として売り出されました。石見銀山からヒ素は産出しませんが、当時はすでに銀山自体の銀の生産が衰退していましたので、「いわみぎんざん」は毒薬の代名詞となり四谷怪談など芝居や小説に数多く登場します。
 明治に洋式技術を導入して銅鉱の生産が飛躍的に伸び、人口約2000人の鉱山町が砥石山(といしやま)南側の谷間に出現しました。しかし、繁栄は長続きせず、第一次世界大戦後の銅価格の暴落により鉱山が衰退するとともに亜ヒ酸の製造を再開しました。亜ヒ酸の用途は主に農薬でしたが、日本陸軍の毒ガス原料としても出荷されました。
 鉱山は昭和24年に一旦閉山し、その後数人の個人や企業が鉱業権を取得しましたが本格操業しないまま、銅価格の低迷と鉱害問題から昭和46年5月に完全閉山しました。



写真2:鉱害対策事業でコンクリートに覆われた程(ほど)彼(がん)川


 鉱山の操業に伴う鉱害は、大規模稼行を始めた明治17年頃から水田への被害が記録され、亜ヒ酸の製造で拡大しました。対策としては昭和20年代に地元の努力で鉱さいの流出を防ぐ砂防ダムが建設されましたが、本格的には昭和45年に島根県が農地の鉱毒汚染を認定した後です。住民の健康被害も明らかになったため、県の工事として昭和48年から10年余の年月をかけて汚染土砂の除去や耕地の客土などの鉱害対策事業が行なわれました。
 現在、コンクリートで覆った川(写真2)やズリ捨て場、覆土して整地された汚染土壌の処分場などの対策工事場所も草木に埋もれ、鉱山町は雑木林となり、往時を伝えるのは明治に開削された7番坑のみとなりました。


アクセス

●7番坑:鹿足郡津和野町大字豊稼(とよか)字石ヶ谷(いしがたに) 地内
国道9号「にちはら道の駅」の南300mから程彼川沿いに県道日原須佐線を約10㎞。または、津和野町長野から砥石山トンネルを経て県道日原須佐線を2.㎞。

●鉱山施設、鉱害対策事業跡:鹿足郡津和野町内(ない)美(み)、豊稼、長福(ながふく)地内
津和野町部栄(ぶさか)から町道笹ヶ谷線を5㎞で内美。三叉路を左折して笹ヶ谷川沿いに砂利道を入るとかつての鉱山町。三叉路を直進すると峠を越えて程彼川沿いの県道に至る。


関連する情報

  堀庭園 (鎌倉時代から昭和まで600年余り鉱山を経営した堀家の迎賓館)
          津和野町邑(むら)輝(き)795  0856-72-0010
  津和野町観光協会 www.tsuwano.ne.jp/kanko
  津和野町役場   www.tsuwano.ne.jp/town


天然記念物などの指定情報

なし


地質学的な意義

 笹ヶ谷鉱山は、ジュラ紀の頁岩砂岩層からなる鹿足(かのあし)層群中に挟まれる石灰岩に石英斑岩が接触して生成したスカルン鉱床です。鉱床は砥石山(といしやま)を中心に東西2㎞、南北700m、坑道の鉛直方向への広がりは200m余に達しました。また、周辺5㎞の範囲には同様の成因の豊稼鉱山、木部鉱山、小野鉱山などが存在しました。鉱床は地層の走向傾斜にほぼ平行で、おおむね東西走向北へ50~60°の傾斜となっています。鉱石は黄銅鉱、閃亜鉛鉱、硫砒鉄鉱が主で、黄鉄鉱、方鉛鉱、輝安鉱、磁鉄鉱、赤鉄鉱を伴います。酸化帯には赤色酸化銅、自然銅および孔雀石が形成され、脈石としては灰鉄輝石(写真3)を主にざくろ石、珪灰石、緑れん石、緑泥石、方解石、石英などがあります。



写真3:坑内に多数見られるストロー状鍾乳石、周囲は灰鉄輝石

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