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島前(どうぜん)・知夫里島(ちぶりじま)の島津島(しまづしま)層

隠岐郡知夫村薄毛

島前火山麓の海底のようすをしらべてみましょう


キーワード:島前火山 浅海成砂岩 巣穴の化石 外輪山 中新世

(執筆:山内靖喜)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「知夫」より

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みどころ

写真1-4

隠岐島前は西ノ島(にしのしま)、中ノ島(なかのしま)及び知夫里島の3つの有人島と多くの小島からなります。これらの島々は約630〜530万年前に活動した火山体で島前火山と呼ばれており、西ノ島の中央部で南に張り出した焼火山(たくひやま)を中央火口丘とし、その外側の島々を外輪山とするカルデラ火山と考えられています。島前火山は、それ以前の新第三紀層を覆って陸域で噴火したものが多く、外輪山は玄武岩類を主体とした下部層と、粗面岩溶岩を主体とした上部層に分けられ、中央火口丘は粗面岩質火砕岩からなります。

外輪山の一つである知夫里島の薄毛(うすげ)沖の島津島は、南北約1km,東西約500mの細長い島です。本島は無人島ですが、島内にはキャンプ場と海水浴場があります。また牛の放牧場があるため、春には草を求めて島津島へ、秋には牛舎へ戻すため牛を泳がせて渡すので有名です。

島津島北西部と対岸の渡津(わたつ)には、海成の堆積岩からなる島津島層が分布しています。島津島層は、島前火山下部の火山岩類に覆われ、また貫入されていることから、噴火活動と同時期に堆積したものと考えられています。ここでは、島津島層と島前火山との関係及びその堆積環境を示す証拠を見ることができます。

薄毛西方の渡津から橋を渡り、島の西端の渡津神社に向かう遊歩道では、地点(1)の手前まで外輪山上部の珪長質粗面岩(貫入岩)が続きます。地点(1)では、厚さ数10cmの砂岩層が重なり合っているのが観察できます(写真1)。島津島層はこのような細粒〜粗粒凝灰質砂岩を主体とした地層で、しばしば中礫大以下の礫岩や泥岩の薄層を挟みます。

地点(1)ではこの砂岩の中に、幅数mm〜1cm強の白色の棒状のものが沢山みられます(写真1)。これは生物の巣穴の化石で、一般にこのような大型の巣穴は浅い海底に棲息する生物によるとされています。また砂岩には、波や潮流の作用でできた規則的な峰と谷からなるリップル斜交葉理が見られ、これらから島津島層の堆積環境は浅い海底と考えられます。

地点(2)の海岸の崖には、泥岩層や礫岩層を挟む厚さ10m程の砂岩層が連続して現れており、ここでもリップル斜交葉理や巣穴の化石が多数見られます(写真2)。砂岩層には黒雲母粗面岩の軽石が混じっており、外輪山下部に含まれる粗面岩(西ノ島の北東部に露出)に由来すると考えられています。

地点(2)より20mほど北の海岸では、島津島層を切る珪長質粗面岩があり(写真3)、島津島層との境界部は、幅1cmほどがガラス質〜細粒な結晶からできています。これは急冷周縁相とよばれる岩相で、高温のマグマが冷たい島津島層に貫入して急冷されたために、マグマ中の結晶が成長しないまま固まった現象です。

地点(3)では粗面玄武岩の岩脈が凝灰質砂岩中に貫入している、互いに食い込んだり、変形しているのが見えます(写真4)。これはマグマが貫入した時期に、島津島層がまだ軟(やわ)らかかったことを示すものです。この岩脈と同質の溶岩がこの砂岩層を覆い、外輪山下部とされているため、本層の堆積と外輪山下部の火山活動が同じ時期であることがわかります。

最近、地点(1)と(3)の間の崖で長径8mmほどの黒曜石の礫が初めて見つかりました(写真5)。皆さんも探してみて下さい。

写真5


アクセス

来居(くりい)港より郡(こおり)、多沢(たたく)を経由して約3.8km


関連する情報

山陰・島根ジオサイト地質百選のホームページ中の「知夫赤壁」、「国賀海岸」、「島前火山中央火口丘(焼火山)

参考文献:千葉とき子・金子信行・鹿野和彦,2000,浦郷地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,74p.


天然記念物などの指定情報

大山隠岐国立公園特別地域


地質学的な意義

島前火山が活動していたときに、島後では島前と異なり流紋岩を主体とした激しい火山活動で、島後の外周部に分布する重栖(おもす)層と北東部でカルデラをなす葛尾(つづらお)層が形成されました。重栖層の流紋岩溶岩・火砕岩は多くの黒曜石を含んでおり、島津島層内で見つかった黒曜石が重栖層に由来するのか、それとも島前火山のものかは、島前・島後の火山活動の関連を知る手がかりとなります。

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