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石見畳ヶ浦

浜田市国分町

中期中新世前期の浅海に堆積した地層が広く露出し,熱帯―亜熱帯性の化石群集が観察できます.







キーワード:唐鐘層 波食棚 化石群集 浜田地震 中新世



(執筆:加藤芳郎)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「下府」より

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みどころ

写真1

写真1:千畳敷と馬の背.中央斜めの線のような亀裂(節理)が縦横にあることから,「千畳敷」と呼ばれる.

畳ヶ浦駐車場から高さ40mほどの絶壁に空いたトンネルを抜けると,足元には平坦な侵食面である波食棚がおよそ49,000 uの地域にわたって広がっています(写真1).地表には縦横に走る亀裂があってちょうど畳を敷きつめたようにみえることから,ここは「千畳敷」と呼ばれています(写真1).

千畳敷には腰かけ岩と呼ばれる直径20〜30cmの丸い石が並んで飛び出していて,特異な光景を見せます(写真2).この石はノジュール(団塊)と呼ばれるもので,貝などの化石からしみ出た炭酸カルシウムなどによって砂岩が特に堅く固まり,風化や浸食に抵抗して丸く残ったものです.地層が傾斜しているためノジュールは列状に並んでいて,11列が認められます.砂岩層からは貝化石(写真3),鯨の骨や木の化石,また,昔の生物の巣穴の化石(生痕)がみつかっています.馬の背と呼ばれる高まりでは(写真4),地層の傾斜の様子や北東−南西方向の断層,風や雨の浸食でできたきのこ岩があり,また海食崖,波食窪,波食溝などの海岸地形が付近でみられます.

写真2 写真3 写真4
写真2:ノジュールの配列 写真3:ノジュール内部の貝化石 写真4:「馬の背」と呼ばれる高まり.崖にみられる礫状のかたまりは砂岩層中のノジュールです.

千畳敷に向かうトンネルの壁面には,「天然の博物館〈石見畳ヶ浦の地学案内〉」として,「浜田地震と石見畳ヶ浦」など8枚の説明パネルがあります.この他にも天然記念物,露頭や断層の説明板があり,畳ヶ浦のでき方やここで観察できる現象などがやさしく説明されています.


アクセス

自家用車利用の場合は,国道9号下府畳ヶ浦交差点を西に入って約1km,駐車場あり.または,JR山陰本線浜田駅から江津行きバスで10分,千畳苑口下車,徒歩10分.


関連する情報

浜田市文化振興課 http://www.city.hamada.shimane.jp/kankou/bunkazai/shitei/kuni/05.html

島根県環境生活部自然環境課 http://www.pref.shimane.lg.jp/environment/nature/shizen/shimane/shimane_kouen/


天然記念物などの指定情報

国指定天然記念物(昭和7年3月25日),浜田海岸県立自然公園.


地質学的な意義

この一帯に露出している地層は新第三紀中期中新世前期(約1,600万年前)の唐鐘層畳ヶ浦砂岩部層と呼ばれ,丸い石がたくさん集まった礫岩層(写真5)と浅い海に堆積した砂粒が固まった砂岩層からなります.千畳敷入口のトンネルは礫岩層を貫いており,千畳敷側に抜けると,そこにはトンネル入口の崖上部にみられた砂岩層が露出しています.千畳敷と背後の崖との間にある断層によって海側が相対的に沈降したためです.馬の背や最北端のめがね橋では,断層による地層のずれが身近に観察できます.

写真5
写真5:大小様々な円礫が固まった礫岩層

砂岩層からは南方系で浅海性を示す貝化石が約40種みつかっています.これは,当時は現在よりも高温の暖流(古対馬海流)が日本海沿岸に流れ込んでいたことを示すものです.

千畳敷は1872年(明治5年)に発生した浜田地震(マグニチュード7.1)によって海岸一帯が約1.5m隆起し,海底から出現したとされていますが,最近見つかった江戸時代の沿岸絵図(浦絵図,1845年頃の作成)には,千畳敷が一部を除いて現在とほぼ同じ景色で描かれています.これは,千畳敷が浜田地震によって海底から突然出現した,という説に疑問を投げかけるものです.

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