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トカゲ岩・屏風岩と火山の火道

島根県隠岐の島町布施

葛尾層の流紋岩からなる絶壁と,粗面岩の貫入岩体のなす奇岩が観察できます.



キーワード:葛尾層 貫入岩 柱状節理 火道 中新世



(執筆:村上 久)

地図

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みどころ

トカゲ岩

隠岐島後の北東部で,今から550万年ほど前に大規模な火砕流を噴出するような火山活動がおこりました。その時,噴出したものはトカゲ岩を中心にして,南北6km,東西4.3kmにおよぶ範囲に分布していて,葛尾(つづらお)層と呼ばれています。中谷(なかたに)林道の入り口から約1.7kmのところから約400mの区間に流紋岩の火砕流を噴き出した通路にあたるところ(火道)を見ることができます。この火道では,マグマが上昇する過程で発泡するとともに,基盤を破片状に砕き,また地下にあったまだ固まっていない、中性でアルカリ成分を多く含む粗面岩マグマの破片を取り込み,引き延ばしました。

屏風岩

林道終点の駐車場から登山道に入り、展望台1,2からは右手にトカゲの形をした岩が(写真1)、さらに上に続く登山道からは鷲ヶ峰(わしがみね)に屏風の形をした岩(写真2)が見えます。トカゲ岩は粗面岩マグマが流紋岩質火山砕屑岩(火山噴火によって地表に放出された破片状の岩片と火山灰が固結してできた岩石。火砕流堆積物,降下火山砕屑物,火砕サージ堆積物などがある)に貫入したもので、岩脈と呼ばれるものです。この岩脈はまわりの岩石より硬く風化しにくいために飛び出しており、その姿がちょうどトカゲが岩をよじ登っている姿に似ていることから名付けられました。手の部分は浸食を免れて残った部分ですが、足の部分は上から落ちてきた岩が割れ目にはさまったものです。また,屏風岩は高温の流紋岩質火砕流堆積物が固まる時に,柱状の割れ目(柱状節理といいます)が発達し,この割れ目に沿って崩落したために急崖となり、それが屏風のように見えることから名付けられたものです。


アクセス

自家用車またはレンタカーをご利用の場合は,西郷港から原田・中村経由で中谷林道の入り口まで約40分、または西郷港から大久・卯敷・布施経由で約35分。遊歩道有り。


関連する情報

参考図書:沢田順弘・小林伸治・村上 久・當銘あかね(1998)日曜の地学25島根の自然をたずねて.14-18頁.島根の自然編集委員会編,築地書館.


天然記念物などの指定情報

大山隠岐国立公園特別地域、県指定名勝天然記念物(1967年)。なお、周辺は隠岐自然回帰の森に指定(島根県)され、杉の天然林やオキシャクナゲ群落を見ることができます。


地質学的な意義

トカゲ岩の下方の谷ではトカゲ岩をつくっているのと同じ岩石を観察することができます。これは灰色をした硬い岩石で、1cmほどの柱状の長石の大きな結晶(斑晶といいます)が目立ちます。この斑晶の長軸は特定の方向に配列し,これを流理構造といいます。

流紋岩の火砕流を噴き出した火道の露頭では、数mmの石英や長石の結晶が細粒の生地の中に散らばっているほか、大きくみて2種類の岩石の破片(岩片)が入っているのがわかります(写真3,4)。1つは白い角張った岩片で隠岐島後の基盤を作っている片麻岩です。この岩石はおよそ2億5千万年前の変成作用によってできた変成岩で、火道の壁としてあったものが、噴火のときに火山ガスの放出で粉々に吹き飛ばされたものです。一方,暗灰色の岩片は粗面岩で、長く伸びたものや不規則な形をしたもの、角張ったものなどさまざまな形のものがあります。これは粗面岩の岩片が、つきたての餅のような状態から完全に固結したものまで多様な固結度をもっていたことを意味し、軟らかい粗面岩があることは流紋岩と粗面岩のマグマが地下で同時に存在していたことを示すもので、非常に珍しい現象です。そして、マグマが上昇するのにともなって火山ガスが放出され(マグマが発泡)、それにともなってマグマが破砕されて火山砕屑物となり、岩片も破壊されたり引き伸ばされたことを示しています。

写真3 写真4
写真3:黒っぽくみえるのが引き伸ばされた粗面岩 写真4:引き伸ばされた粗面岩(Tr)と片麻岩(G)の接写(撮影:沢田順弘)
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