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海潮(うしお)の陥没

雲南市大東町中湯石

日本海の発生に関連した地殻変動の痕跡をみてみよう。

(1)〜(3):見学地点
P: 駐車場

キーワード:波多層 陥没 角礫岩 溶結凝灰岩 中新世

(執筆:山内靖喜)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「木次」「上山佐」より

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みどころ

写真1,2

2300万〜1800万年前(前期中新世)、日本海が作られつつある頃に山陰地域でも激しい地殻変動が起きました。その痕跡を海潮温泉の赤川でみることができます。

【地点(1)】:赤川の飛岩橋とゆけむり大橋の間には川底近くに遊歩道があります。この遊歩道のゆけむり大橋の下には、風化した粗粒な花崗岩の露頭があります。しかし、飛岩橋近くの階段横には、黄、白、黄褐、黒色などの色を示す露頭があり、普通の岩石と違うようです(写真1)。白い部分は軟らかい粘土で、黒色な部分は花崗岩です。粘土と硬い花崗岩中に粘土が脈状にできているのです。

さらに、写真1の右半分は黄色や白色の粘土をほとんどもたない花崗岩ですが、角張った岩片のようにみえる部分もあります。しかし、写真1の左端では角礫岩のようです。花崗岩と角礫岩の境に断層が生じ、断層に沿って地下深部のマグマから由来した熱水が上がってきたのです。イオウなどを含む熱水は激しく破砕された花崗岩と化学反応を起こして、花崗岩を粘土に変えてしまったのです。なお、花崗岩中にはキラキラ光る黄〜黄白色の鉱物、黄鉄鉱がところどころに入っておりますが、熱水の作用で作られたものです。

下流の方に50mほど戻りますと、川底と対岸に角礫からなる礫岩があります(写真2)。この礫岩は主に粗粒な花崗岩の角礫からなり、直径1m近い大きな礫や割れかけた状態の礫も含んでいます。礫と礫の間の細粒な部分は花崗岩の細かな破片からなっております。このような特異な特徴は、大きな崖が崩れて、落下してきた岩塊や土砂がその麓に堆積した崖錐堆積物によく見られます。

これまでの調査によると、前期中新世に大きな断層によって花崗岩からなる大地が割れて陥没し、高く急傾斜の崖に囲まれた盆地がつくられたのです。花崗岩からなる崖の麓には、崖崩れによる角礫や巨大礫が堆積しました。

写真3

【地点(2)(ゲートボール場上流側川底の平らな露頭)】:ここの岩石も長径が1m以下の角礫を沢山含んでいて、地点(1)の角礫岩に似ています。しかし、ほとんどの礫は長さ1mmほどの透明な斜長石を含み、それ以外には鉱物粒子がほとんどみえないデイサイトの礫です。大きな礫と礫の間にはデイサイトの細かな破片、長石の結晶片及び軽石などの混合物が埋めており、この岩石はデイサイト質凝灰角礫岩です。写真3の左中央に茶褐色の礫が写っていますが、これは花崗岩の礫です。また、ごく稀に細礫〜中礫大の泥岩礫も含まれておりますので、これらは火砕流が川や湖に流れ込んで、水底に堆積したものと考えられております。

写真4

【地点(3)】:地点(2)から道路を東に400mほど行きますと、右側に写真4の崖があります。この崖の右半分は全体に黒灰〜青黒色をした塊状の岩石で、白色、灰色、黒色などの破片を多く含み、長さ1cm前後の黒色の筋が含まれています。これは軽石がつぶれたものです。火砕流が陸上で堆積すると、その堆積物の内部はしばらく高温状態が続くため、火砕流自身の重みで軽石はつぶされ、再溶融して火山ガラスに変わります。このような火砕流堆積物からできた岩石を溶結凝灰岩といいます。

他方、崖の左半部は左手(東方)に傾いた平行葉理をもった岩石からなります。この岩石を割ってみると、細粒〜極粗粒な凝灰岩が厚さ1mm〜数cmの平行葉理を作っています。各葉理においては、凝灰岩の粒子の大きさが比較的そろっております。このような特徴から、この凝灰岩は火口から大気中に噴出し、陸上に降り積もった火山灰が固まってできた岩石です。


アクセス

松江駅前より「大東」行きのバスで約40分、木次線「出雲大東」駅前より「松江」行きバスで約10分で「飛石桂荘前」下車、徒歩数分で地点(1)。

自動車:県道松江木次線でJR松江駅より約20km、国道54号里熊大橋より約20kmに「ゆとりの里」と大駐車場。


関連する情報

山陰グリーン・タフ団体研究グループ(1973)グリーン・タフ積成盆の発生期にまつわる二、三の問題.地質学論集,no.9.122.


天然記念物などの指定情報

とくになし


地質学的な意義

前期中新世には激しい火山活動を伴う地殻変動が北海道から島根県までの日本海沿岸地域に起きて、多量の火山岩が噴出しました。これらの火山岩は緑色をしていることから、グリーンタフともよばれております。山陰地域では、鳥取市、米子市から南部町、雲南市掛合町、大田市にもこれらの火山岩が広く分布します。

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