浮遊性有孔虫による年代決定


林 広樹

私の研究内容について,簡単にご紹介します.


写真左:浮遊性有孔虫Globigerinoides ruber rosaの写真。大きさは約0.3mm
写真右:日本の海洋掘削船「ちきゅう」

あなたの足もとの大地は,岩石でできています。そうした岩石がいつできたかを知ることは,なぜ大切なのでしょうか?

みなさんは社会科の時間に,日本の歴史を勉強したことがあると思います。そうした歴史の時間には,さまざまな歴史上のできごとを年表に沿って覚えましたね。できごとの起きた年を覚えることはとても大変ですが,私たちは年表によってものごとの起きた順番を知り,また社会の歩みを具体的な時間のイメージとともに実感することができます。さらには,中国や韓国、アメリカなど他の国々の年表と比べ,私たちの歴史が人類全体の歴史の一部であることを実感することができるのです。

地球の歴史を知る時も,同じことです。あなたの足もとの岩石は,大地の歴史の一部を記録しています。それを年代に沿って並べることで,最終的には地球の歴史を復元することができるでしょう。しかし,地球はとても大きいので,地球まるごとの歴史の復元はものすごく大変です。それは地質学という学問の永遠の課題でもあります。私たちはそのために,たくさんの岩石の年代をできるだけ正確に調べなければなりません。

私は化石を使って岩石の年代を調べる専門家です。皆さんが化石と聞いて最初に思い浮かべるのは,恐竜の化石ではないでしょうか?たとえば,ステゴサウルスという恐竜は,中生代のジュラ紀という年代に生きていたことが分かっています。ですから,逆にいえば,岩石からステゴサウルスの化石が見つかれば,その岩石の年代はジュラ紀であることがわかります。これが,化石を使って年代を知る基本原理です。しかし,ステゴサウルスのような珍しい化石を見つけるのはとても大変ですし,大きいから掘り出すのも時間がたくさんかかります(数年かかることもあります)。

実は私が年代を決めるのに使っているのは,そういう大きな化石ではなく,砂つぶほどの大きさのとても小さな生き物の化石です(「微化石」と呼ばれます)。海の中には,私たちの目にはなかなか見えませんが,そういう小さな生き物がたくさんふわふわ漂っていて,さらに小さな生き物をエサとして食べています。そんな小さな仲間のひとつに,浮遊性有孔虫という生き物がいます。浮遊性有孔虫はアメーバのように単細胞の生き物ですが,アメーバと違って,ぽこぽこと丸い貝がらのような可愛らしい殻をもっています。この浮遊性有孔虫には何百もの種類があって,それぞれで生きていた時代が違います。ですから,岩石から浮遊性有孔虫の化石が見つかれば,先に紹介したステゴサウルスと同じりくつで岩石の年代を知ることができます。しかし,ステゴサウルスと違って,指先でつまめるひとかけらの岩石の中にも,何万個もの化石が含まれていることがあります。このように,微化石はわずかな岩石からもたくさん見つかるので,恐竜のような大きな化石よりもより詳しく年代を決定することができます。

浮遊性有孔虫の化石を使って年代を知るためには,あらかじめ様々な種類のそれぞれについて,生息していた時代をこまかく調べておく必要があります。そのために一番よい方法は,深海底の地層に含まれている浮遊性有孔虫化石を調べることです。たとえば,世界でもっとも大きな海洋である太平洋の大部分は,かなり遠い昔からずっと海のままです。ですから,浮遊性有孔虫のような海の生き物の化石をたくさん含む地層が,日本の陸上よりもきれいにたくさん積み重なっていることが多いのです。しかし,深海底の地層はハンマーを持って長靴で調べにいくことはできませんので,掘削船という特殊な船を使って取りに行く必要があります。右の写真は「ちきゅう」という日本の掘削船で,高い塔のようなやぐらがそびえた大きな船です。この船では,このやぐらで長い鉄のパイプを組み立てて海底に突き刺すことにより,水深2000m以上の海底をさらに7000m以上掘りぬくことができます。こうした掘削船の調査では,海底で発生する地震のメカニズムや長期的な気候変動などを詳しく調べることができるので,化石の研究者だけでなく世界中の研究者が参加する大きな共同研究となります(統合国際深海掘削計画,略称IODPといいます)。

私はこれまで,「ちきゅう」による紀伊半島沖の研究航海や,アメリカの掘削船 JOIDES Resolution号による太平洋東部の研究航海に参加してきました。世界各国の研究者と一緒に研究することは,とてもワクワクする素敵な挑戦です。これから研究の道に進みたいと思っている皆さんにも,ぜひお勧めします。


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