[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義] みどころ
吾妻山は、中国脊梁山地を代表する標高1238.4mの山です(写真1)。中国脊梁山地の山頂は一般に緩傾斜で、高さが1000-1200mで良くそろっており、山腹の急傾斜とは対照的です。このことは、かつて山頂付近に広く連続した平坦面が存在していたことを示唆しています。この平坦面を脊梁面(または道後山面)と呼びます。 大峠駐車場(地図の(1)地点)から中国自然歩道を大膳原方向へ向かいましょう。大膳原までは約1時間の登りです。途中には、風化してマサ(真砂)化した古第三紀の花崗岩や白亜紀または古第三紀の流紋岩類が露出しています。
大膳原は平坦な草原で、先述の脊梁面に相当します。春から秋にかけては様々な野の花が咲き誇ります。大膳原野営場(地点(2))の脇には、砂岩の小さな露頭が見られます(図1、写真2)。この付近の砂岩からは貝殻やウニのとげの化石が見つかっており、およそ1600万年前の海の地層(備北層群)であることが分かっています。これは、中国山地で見られるもっとも標高の高い「海の地層」の露頭です。 大膳原から吾妻山山頂までは約1.3km、40分の登りです。大膳原よりも標高が高い部分は、約1000〜1200万年前の玄武岩溶岩がほぼ水平に覆っています。山頂付近には、玄武岩の露頭が見られます(地点(3)、写真3)。玄武岩は周囲の岩石と比べて硬いため、侵食されにくく、脊梁面の大膳原から200m以上高くそびえています。 山頂からは、晴れていれば北に遠く日本海が望めます。南にひろがる中国山地のスカイラインを眺めてみましょう。山地であるにもかかわらず、台地のように地平線が平らに見えます(写真4)。まるで、山々の頂きを結ぶまぼろしの平坦面が存在しているかのようです。吾妻山よりも一段低い、標高400〜600m前後のこの地形面を吉備高原面と呼びます。 南西側(広島県側)の斜面を見下ろしてみましょう。国民休暇村の建物やキャンプ場の周囲は、すり鉢状の急斜面に囲まれた広い緩傾斜面(池の原)です。これは地滑り地形とされています(図2)。池の原にある3つの池(大池、原池、ひょうたん池)は、かつて鉄穴(かんな)流しの水源として使われていました。
アクセス登山道入口まで自家用車を利用します。県道25号線(玉湯吾妻山線)の終点に数台分の駐車場があります(地点(1))。ここから中国自然歩道を大膳原まで徒歩1時間、さらに吾妻山山頂(地点(3))まで徒歩40分です。広島県側からは、国民休暇村の駐車場から山頂まで徒歩40分です。冬季は積雪のため、見学することが困難です。 関連する情報島根県自然環境課 (「中国自然歩道」「しまね自然公園ガイド」「みんなで守る郷土の自然」に情報があります。):http://www.pref.shimane.lg.jp/shizenkankyo/ 国民休暇村吾妻山ロッジ(広島県側):http://www.qkamura.or.jp/azuma/ 大膳原野営場の問い合わせ先:奥出雲町地域振興課(0854-54-2524) 天然記念物などの指定情報比婆道後帝釈国定公園 広島県側の備北層群は庄原市天然記念物 地質学的な意義中国山地の地形の大きな特徴は、先述の脊梁面や吉備高原面のような、数段の侵食小起伏面の存在です。こうした面は、かつて広く連続した平坦面が存在し、それが隆起後に谷によって侵食されたものと考えられています(隆起準平原とも呼ばれます)。吾妻山ではこうした地形の特徴をよく観察できますが、特筆すべきなのが、写真2で示した備北層群の存在です。この備北層群からは海の生物の化石が発見され、それにより約1600万年前には、脊梁面の少なくとも一部が海面下であったことが明らかになりました。備北層群は広島県庄原盆地など、中国山地の盆地内部に主に分布していますが、脊梁面に相当する高度からは吾妻山からしか発見されていません。 なお、吾妻山の広島県側では、道路際で備北層群のもっと大きな露頭が観察できます(地点(4)、 写真5)。この露頭は庄原市の天然記念物に指定されていますので、崩したり掘ったりしないように気をつけて観察しましょう。
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