隠岐地方のジオサイト

福浦トンネル

島根県隠岐郡隠岐の島町福浦

明治時代の手彫りの労作「福浦トンネル」は、貴重な土木遺産です。

右の地図の番号は本文中の説明に対応しています。


キーワード:重栖層 火砕サージ 土木遺跡 溶結凝灰岩 中新世

(推薦:藤野孝夫さん)
(執筆:村上 久)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「隠岐北方」より

[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義]


みどころ

写真1

島後西部の重栖から福浦に至る海岸にはノミを使って手彫りで掘られたトンネル(地図上の地点1)があります(写真1)。明治以前の福浦−重栖間の道は急峻な崖の中腹にあったのですが、落石や転落の危険があるため、明治のはじめに海岸沿いの道が作られました。この道は、波食棚を必要な幅だけ平坦に削って通行するように工夫されており(写真2)、棚の発達が悪く危険な箇所をトンネルにしたものです。したがって、トンネルは数カ所にわたって途切れ途切れに掘られています。しかし北西の季節風が強いと波食棚は波で洗われて通行ができないため、明治34年に山側に1本の新しいトンネルが手彫りとダイナマイトを使って作られました。このトンネルには、途中に灯り取りの窓が何カ所か設けてあります。さらに昭和の後半には、車輌の通行がスムースになるように新トンネルの拡幅がなされました。これらのことが評価され、2005年度には土木学会から「土木遺産」に指定されています。現在、新トンネルには亀裂が入り、また落石の危険があるため、車での交通は禁止されています。なお、トンネルの掘られた地層は今から約550万年ほど前に噴出した重栖層と呼ばれる火山岩類の一部で、粗面岩と呼ばれるアルカリ成分を多く含んだ中性の火山岩の火砕岩です。この火砕岩は軟らかくて削りやすく、言い換えれば浸食されやすいため、海岸には海食崖や波食棚(写真2)またポットホールや波食窪などができたのです。福浦側では、この火砕岩を覆う流紋岩溶岩の急崖が、白糸の滝と深浦の滝(地点2)を作っており、冬期には水墨画の世界を垣間見るような景観を醸し出します。なお、現在の新福浦トンネルは昭和63年に完成しています。

写真2


アクセス

 自家用車あるいはレンタカーを利用する場合は、西郷港から原田経由で約30分、都万経由で約45分。バスを利用する場合は福浦行き(1日3便)で約60分。重栖あるいは福浦で下車。


関連する情報

参考図書:日曜の地学25 島根の自然をたずねて.12-13頁.島根の自然編集委員会編,築地書館.

隠岐の島町: http://www.town.okinoshima.shimane.jp/


天然記念物などの指定情報

大山隠岐国立公園特別地域

島根県名勝天然記念物「重栖の岸壁」


地質学的な意義

福浦トンネル周辺の地層は、アルカリ性分に富む酸性の流紋岩と中性の粗面岩の噴火が交互に繰り返されてできたもので、ここでは噴火口の周辺のいろいろな堆積物がみられます。トンネルが掘られた火砕岩は、火山の噴火で巨大な噴煙柱が垂直に上昇した後、火砕物が急速に降下して堆積した"火砕サージ"と呼ばれる堆積物で、火砕物が高速で移動・堆積した証拠である斜交層理や平行層理、あるいは噴石や火山弾の落下痕が見られます(地点3、写真3)。湾の中央部にある弁天島(地点4)は、この火砕サージと粗面岩溶岩から出来ており、湾の西の半島の地層と同じです。このトンネルの重栖側には、火口から飛び散ったマグマの飛沫(スパタ−)でできたガラス質の溶結凝灰岩(写真4)が黒滝岩と呼ばれる黒っぽい急崖(地点5)を作っており、古い採石場(地点6)へと連続しています。また溶岩も噴火したものや貫入したものがあり複雑な火山現象を観察することができます(参考図書参照)。

写真3,4

[隠岐地方のジオサイト一覧へ | 島根ジオサイト百選へ]