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浜田一ノ瀬(いちのせ)地区の地すべり

浜田市内村町一ノ瀬

赤線の範囲が地すべりブロックです。

星印の付近から観察すれば地すべりおよび対策工法の様子がよくわかります。


キーワード:浜田層群 崩壊型地すべり 火砕岩 断層 古第三紀


(執筆:新宮敦弘)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「木都賀」より

[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義]


みどころ

写真1

写真1:対策工事と復旧工事が行われた地すべり発生現場(平成20年現在)

本地すべりは平成3年3月23日に発生しました。この年の3月の長期降雨により地盤が緩み、周布川(すふがわ)脇の斜面で崩壊型地すべり、いわゆる“崖崩れ”が大規模に起きたのです。崩れた斜面は長さ150m、幅150mで、崩れ落ちた土砂により周布川は約100mにわたって堰止められました。この地すべりがさらに進行すれば、崩れ落ちた土によって河川水位がさらに上昇し、付近の県道が通行不能になるばかりではなく、堰き止められた水量が増えれば、その重みで堰き止めている土砂が押し流されて、下流への二次災害が心配されました。

このように地すべり規模が大きく、二次災害の危険性があったため、島根県内では初めて、大規模災害時の専門家派遣制度である「アドバイザー制度」を要請し、平成3年3月28日に3名の専門家がアドバイザーとして被災地を訪れました。この専門家の助言により、恒久対策の資料となる地すべり調査が実施されました。

写真2,図1

地すべり調査では11箇所の調査ボーリング(ドリルによる掘削と土や岩盤の試料をとる調査)を行ないました。このボーリングであけた孔に設置したパイプ歪計(ひずみけい)(ボーリング孔内に設置し、地盤内のずれを観測するセンサー)と地表に設置した伸縮計、地盤傾斜計、移動杭による地すべり土塊の規模や動きと地下水の調査・観測を行ないました。

これらの調査・観測結果に基づいて決定された対策工事の内容は、断面図に示すように2つの工法を組み合わせたものです。地すべりの主な原因の一つである地下水を抜く工法(集水井戸や横ボーリングによる水抜き)と土塊が動くのを抑えるためのアンカーによる抑止工法です。この対策工事と復旧工事には総計約15億6千万円かかりました。

図2


アクセス

国道9号線 浜田市 新福井交差点より県道浜田美都線を南へ約6km


関連する情報

島根県砂防課のホームページ:http://www.pref.shimane.lg.jp/sabo/


天然記念物などの指定情報

地すべり防止区域「一ノ瀬」に指定されている。


地質学的な意義

地すべり箇所の地質は古第三紀の浜田層群のデイサイト質火砕岩および流紋岩類よりなっています。基盤のデイサイト質火砕岩は断層および節理、熱水変質によって脆弱となった岩盤であり、地すべり頭部付近にある断層を通じて地すべり地内に水が供給されることで、地下水位が上昇しやすい状況にありました。そして、平成3年3月の長期降雨によって部分的に地下水が集中したため地すべりが発生したことが明らかとなりました。

島根県内では毎年のように集中豪雨や台風によって山地斜面での地すべりや崖崩れなどがおきて多大の被害がもたらされています。とくに、島根県西部地域は昭和58年の豪雨では多くの被害を被りました。この58年災害も直接の引金は大雨です。しかし、本地域を含めて島根県西部地域の海岸から数kmの距離の山地では、後期鮮新世から前期更新世にかけて都野津層が堆積した時代に強い風化作用を受けております。この風化作用によって、現在の尾根部は大変脆弱になっており、他地域に比べてより崩壊しやすい状況にあることも、原因の一つだったということを忘れてはなりません。

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