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岸浜峠の黒曜石

島根県隠岐郡隠岐の島町今津

地図 地図
国土地理院発行1:25000地形図「西郷」より 隠岐の島町1:5000森林基本地図を使用

隠岐空港移転・拡張工事により周辺の地形が大幅に変化したため、隠岐の島町1:5000森林基本図を添付しました。

キーワード:重栖層 流紋岩質火砕岩 火道 黒曜石 中新世

(執筆:村上 久)


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みどころ

全景
写真1 岸浜峠の切り通し法面でみられる、垂直に引き伸ばされた黒曜石〜松脂岩

黒曜石は隠岐を代表する岩石の1つで、石器時代は矢じりなどの石器の材料として山陰地方のみならず畿内や瀬戸内地域、さらには朝鮮半島やロシア沿海州にまで流通していました。黒曜石とは、ほとんどがガラスからなる流紋岩〜デイサイト(珪酸分に富んだ火山岩)質の火山岩のことをいい、含まれる水の量で岩石の特徴が変わるため名前も変わります。色が暗黒または灰黒色で、貝殻状のわれ口を示し、水の含有量が少ないものを黒曜石と呼びます。水の量が多く真珠のような同心〜渦巻き状の割れ目が発達するものは真珠岩(パーライト)とよばれます。さらに水分が多くなり、暗黒・暗緑・暗紫などの色を示し松脂光沢をもつものを松脂岩(ピッチストーン)とよびます。ここでは、松脂岩〜黒曜石が黒っぽいレンズ状の塊として流紋岩の火砕岩中に入っています(写真1)。ここはマグマの火道であったために、火山ガラスは垂直に引き伸ばされており、マグマが上昇するときのようすが観察できます。


アクセス

自家用車あるいはレンタカーを利用する場合は、西郷港から西田・今津経由で約12分、隠岐空港から約5分。


関連する情報

産業技術総合研究所2008,西郷図幅説明書(編集中)

八幡黒耀石店: http://fish.miracle.ne.jp/koji/


天然記念物などの指定情報

なし


地質学的な意義

全景
写真2 数珠状につながった黒曜石(最大長径約1cm)灰色〜赤褐色の部分は真珠岩〜松脂岩

黒曜石は溶岩や火砕岩の中に含まれますが、松脂岩は溶岩や岩脈(マグマが他の地層に貫入したもの)としてあらわれることが多いようです。島後で黒曜石〜松脂岩の含まれる岩石は、いまから550万年ほど前に活動した重栖層の火山岩で、特に流紋岩の火砕岩中にはこれらの破片が普遍的に含まれています。切り通し北の配水池から左手にかけては、黄褐色の流紋岩質火砕岩の中に黒い岩塊がいくつも入っているのが見えます。黒い岩塊をよく見ると、高角度で引き伸ばされた灰色の松脂岩〜真珠岩の中に数珠状に黒い黒曜石の入っているのが観察できます(写真2)。これらは流紋岩マグマの上昇にともなって揮発性成分のガス化が生じ、マグマの急冷にともなってできた火山ガラスが壊されて火砕物へと変わっていく過程と、水分(ガス)の少ない核が黒曜石となり、水分が多い外側が真珠岩や松脂岩になったことを示しています。また切り通しの切り取り面では、低角に配列した黒っぽい松脂岩の中に結晶化の進んだ球状の流紋岩(球果流紋岩)がまじり、マグマの温度が不均一であったことを示しています(写真3)。これよりも上方では、より発泡の進んだ凝灰岩が水平に広がることから、垂直に上昇してきたマグマが発泡しながら横に広がっていく噴火の様子を観察することができます。島後の黒曜石の産地では同様の産状を示すものが多く、黒曜石の最大径が1mを超すものもみられます。

全景

写真3 球果流紋岩(灰色)を含む松脂岩(黒色)、下は最小目盛り1cmのスケール
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