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三井野原の分水界

仁多郡奧出雲町三井野


キーワード:河川争奪 江の川水系 斐伊川水系 三井野原 おろちループ


(執筆:大坂 理)


国土地理院発行1:25000地形図「多里」より

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みどころ



写真1 : 分水界を示す標識

 島根県と広島県の県境に位置する奥出雲町南端には、道後山、三国山、烏帽子山、比婆山、吾妻山などの標高1000〜1350mの山々が東西に配列し、中国山地の稜線を形成しています。この稜線が北側の斐伊川水系と南側の江の川水系の分水嶺であり、 県境になっています。
 スイッチバックで有名なJR木次線の三井野原駅は、標高約730m の幅広い谷底にありますが、珍しいことに斐伊川水系と江の川水系の分水界がこの谷底の平野にあります。国道314 号線を三井野原駅から北東(横田)方面に約200m行きますと、標識(写真1)が分水界の位置を示しております。この地点より南西側の水は西城川(江の川水系)に、北東側の水は室原川(斐伊川水系)にそれぞれ流れ込みます。



写真2 :深い谷と奥出雲おろちループ


 谷底の三井野原に分水界ができたのは、川の流れが変わったからです。数10万から数100万年前には、坂根付近には室原川は流れていないで、坂根より西側では西城川が現在の室原川の北側から三井野原をとって南に向かって流れていたのです。しかし、室原川の浸食力が強く、坂根の東側に向かって延びてきて、室原川が西城川を切断したのです。その結果、西城川の最上流部は室原川水系に組みこまれ、三井野原では室原川の間の崖に向かって流れ落ちる小さな川が生じたため、三井野原の平地に西城川と室原川水系の分水界ができたのです。このようにある川が他の河川を切断して、その上流部を自分の水系に取り込む現象を河川争奪といいます。なお、かつて西城川が流れていた後には平らな地形が室原川の北側の山頂部や尾根に残っております。
 三井野原北東部には室原川の浸食でできた高さ150mほどの急な崖があります。そのため、坂根・三井野原間では標高差が約170mあるので、鉄道はスイッチバック方式でこの崖を登っております。また、国道314 号線は11の橋と3つのトンネルを主体とした二重ループ方式の道路でこの標高差を登りますが、この二重ループの道路は“奥出雲おろちループ”の愛称で呼ばれております。ついでに、JR木次線出雲坂根駅前に寄って延命水と呼ばれる湧き水を試飲してみましょう。延命水は昔から多くの人に愛飲されてきました。
 なお、島根地質百選の「高津川源流」でも大規模な河川争奪が案内されております。



写真3 :出雲おろちループの最上部にある「三井野原大橋」


アクセス

 仁多郡奧出雲町三井野
 自家用車利用の場合は、国道314 号線に沿ってまっすぐ県境まで南下し、おろちループで上がった先に分水界を示す標識があります(写真1)。
 最寄り駅: JR木次線 三井野原駅


関連する情報

奥出雲町ホームページ:http://www.town.okuizumo.shimane.jp
小畑 浩(1991) 中国地方の地形、古今書院


天然記念物などの指定情報

 比婆道後帝釈国定公園


地質学的な意義

 中国山地は中新世中頃から隆起してきて、その脊梁部は準平原化したとされております。また、他の山地に比べて中国山地では河川争奪の痕跡が多く見られるのが特徴ですが、山頂部が平坦化したため、より河川争奪が起こりやすくなったと考えられております。中国山地での河川争奪については、上記の「中国地方の地形」に詳しく書かれております。

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