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鍋山鉱山のセリサイト

島根県雲南市三刀屋町乙加宮

セリサイトは島根県の代表的な鉱産資源のひとつです。



キーワード:セリサイト 熱水性 花崗岩 斐川マイカ 古第三紀


(執筆:大平寛人)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「稗原」より

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みどころ

写真1

花崗岩中の亀裂〈割れ目〉を充填する熱水性絹雲母(セリサイト)鉱床です。斐川礦業株式会社(出雲市上島町)の所有で国内でも数少ないセリサイト鉱床のひとつです。

地表には竪坑入口、コンプレッサー、ベルトコンベアなどの施設や作業小屋などがあります(写真1)。深さ30mの坑道では独特の工法による採掘が行われ、花崗岩が熱水による変質を受けてセリサイト鉱床が形成された様子がわかる貴重な露頭が存在します。


アクセス

民間企業の管理する鉱山で、かつ大変危険なため一般の立ち入りはできません(雲南市三刀屋町南部、山陰自動車道三刀屋インターの南西約3kmに位置します)。


関連する情報

高木哲一・松浦浩久(2005)木次地域の地質,第9章 応用地質,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産総研地質調査総合センター,p53-67.

岩生周一(1953)島根県飯石郡の淡緑色絹雲母鉱体.地質調査所月報,4,223-238.

斐川礦業株式会社:http://hikawa-mica.com/


天然記念物などの指定情報

なし


地質学的な意義

雲南市三刀屋周辺にはかつて20近いセリサイト鉱床が存在し、これらは明治末期から大正年間にかけて採掘され、戦後再び採掘されるようになりました。鍋山鉱山は昭和37年(1962年)に開発され、この地域で現在も稼働する唯一の鉱山です。

鍋山鉱山のセリサイトは、花崗岩の固結後の冷却過程で生じた揮発成分(熱水)が、花崗岩自身を変質させて形成されたものです。セリサイト鉱体は幅30 m、長さ100 m程度で、この地域の他の鉱床に比べて大規模です。ここに大規模な鉱床ができた理由は、鍋山鉱山が花崗岩中の亀裂の交差する部分に位置しているため、亀裂を通して豊富な熱水が供給され、熱水変質が広く進行したことによると考えられています。

坑口から深さ30mまで竪坑で垂直に降り、そこから横坑道でセリサイト鉱体へアプローチします。坑道は樫や松などの木枠によって支保され(写真2)、一度採掘した坑道を埋め戻す充填工法を採用しています。坑道内では新鮮な花崗岩、弱変質花崗岩、強変質花崗岩(セリサイト鉱石)を観察することができます。高品位の鉱石は淡緑色・均質で、原岩の花崗岩の組織はほとんど残存していません(写真3)。場所によっては鏡肌のようなすべり面をみることができます。

写真2

鍋山鉱山は現在でも安定して鉱石を産出しています。これには、鉱石から高品質のセリサイトを抽出・精製する技術の研鑽に格段の努力を払っている工場側の姿勢が欠かせません。精製されたセリサイト(斐川マイカ)は塗料、化粧品、合成樹脂などの原料として利用されます(写真4、5)。

写真3,4

写真5

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