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高津川源流の河川争奪

鹿足郡吉賀町田野原

日本一の清流高津川。かってはより広大な流域をもっていましたが、源流部は争奪されてしまいました。

  1. 大蛇ヶ池
  2. 深谷大橋
  • 赤破線:争奪される前の高津川の流路(推定)
  • 青矢印:現在の宇佐川の流下方向

キーワード:河川争奪 大蛇ヶ池 平成の名水百選 深谷川 日本一の清流


(執筆:渡辺勝美、加藤芳郎)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「宇佐郷」より

[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義]


みどころ

写真1

ダムのない清流として知られている高津川は吉賀町田野原にその源を発し、津和野町、益田市を抜けて日本海に注ぐ長さ81km、流域面積1090km2の一級河川です。かっての高津川は今よりも広大な流域をもっていましたが、その源流部は瀬戸内海に流れる錦川の支流である宇佐川や深谷川によって争奪されてしまいました。現在は無能河川※1となった幅広い旧河床が、山口県側から島根県側の田野原にかけて続いています(写真1)。山口県との県境となる深谷川はかつての高津川本流を横断して深く削り込んでいて、その名の通り80〜100mの深さのある峡谷をつくっています(写真2)。

高津川は源流が特定できる珍しい河川です。水源は田野原にある大蛇ヶ池(おろちがいけ)です(写真3)。池の周りは水源公園として整備されており、傍らの水源会館では水と人と自然のかかわりがパネルや展示で説明されています。

※1:新版地学事典(1996)によると、谷底の広さに比べ水量が少ない河川を指し、河川争奪によって上流側を奪われ水量が少なくなった下流側の川や、谷床の砂礫堆積物が厚くなり大部分が伏流して表面水流が減少した川をいう。

写真2と3


アクセス

益田から国道9号を利用し、津和野町日原から国道187号に入ります。吉賀町六日市から県道六日市錦線で東へ約8km行くと水源公園に着きます。益田から水源地までの全ルートが高津川に沿った道路です。公園から県道をさらに約2.5km行くと、県境に架かる深谷大橋に着きます。中国自動車道六日市ICからも近いところです。


関連する情報

大蛇ヶ池一帯は水源公園となっており、公園の中に水源会館があります。

吉賀町役場:http://www.town.yoshika.lg.jp/kankou/index.html

国土交通省河川局・日本の川:http://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/


天然記念物などの指定情報

深谷川筋は西中国山地国定公園です。

大蛇ヶ池の湧水は、環境省の「平成の名水百選」に「一本杉の湧水」として選ばれています。池の畔の一本杉は樹齢千年以上といわれ、島根県の「名樹百選」に選ばれています。高津川の水質は、国土交通省の水質調査において、2006年・2007年と2年連続で日本一とされました。


地質学的な意義

河川争奪は、河川が他の河川の一部を奪いその流域を自らのものにする現象をいい、一般的には河床勾配の差による浸食力の差によって形成されるといわれています。高津川では更新世末〜完新世に中〜上流域で河床埋積が発生したため、源流部が宇佐川へと流路を乗り換え、それによって河川争奪が起きたと考えられています。

高津川本流の流域には上流から下流に順に、砕屑岩を主体とする中・古生界(樋口層、錦層群)、中生代白亜紀の酸性〜中性火山砕屑岩類(関門層群、匹見層群、阿武層群)と貫入岩、中生代ジュラ紀のメランジである鹿足層群、トリアス紀〜ジュラ紀の周防変成岩という島根県の中でも古い地質時代の地層や岩石が分布しています。下流域になると、新生界(益田層群、都野津層、砂丘など)からなる丘陵や台地が現れます。高津川に沿って移動すれば、古い地質時代から新しい時代まで、また砕屑岩、火山岩・貫入岩、変成岩など多種多様な地層・岩石を観察することができます。

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