鉱物上の自発核分裂飛跡(左)とディテクター上の誘発核分裂飛跡(右)
非金属資源と熱水活動
岩石から取り出したジルコン(ZrSiO4)です.
とても小さな鉱物で,淡紅色で,光を当てるとキラッとする光沢(はり光沢)を持っています.ジルコンの中には238Uが数100ppm含まれていて,長い地質時代の中で,238Uが自発的に核分裂を起こして,ジルコンの中に傷跡(自発核分裂飛跡;フィッション・トラック(FT))を形成します.この飛跡を利用して岩石や地層の形成年代を調べることができるのです.写真のジルコンのほかに,チタナイト(CaTiSiO5:淡い黄色で透明感があるきれいな鉱物)や燐灰石(無色短柱状のキラッとする鉱物)もウランを含んでいて,年代測定に利用することができます.
ジルコンの取り出しと薬品処理
ふるい分け,パンニング(砂金取りの要領),比重分離を経て,ジルコンをとり出します.縫い針の針先に鼻の脂でひっついているジルコンが上から2列目右端の写真です.普通は0.1mm ~ 0.3mmの粒子を年代測定に使用します.とても小さいですが,これくらいが一番実験しやすい大きさです (地球科学 58, No.3, 185-189より).最下列右端は3CCDカメラ,ビデオ計測器,ビデオプリンタ,レーザー変位計,顕微鏡からなるフィッション・トラック計測システムです.学生・院生の皆さんもこれまで多くの貴重なデータを出しています.
光学顕微鏡(約1000倍)で観察した核分裂飛跡です.
●多数の小さな直線状の傷が238Uの自発核分裂飛跡で,200℃以上のアルカリ処理(エッチング)によって次第に出現してきます.(自発核分裂飛跡:左).
●鉱物にディテクター(白雲母)を密着させて原子炉で中性子を照射すると,鉱物の中の235Uが核分裂して,その飛跡が白雲母に転写されます(誘発核分裂飛跡:右).
●左右対称の核分裂飛跡の単位面積のあたりの密度を精度よく計測して,238Uの壊変定数から年代値を求めます.
グリッドの最小のます目の1辺が10ミクロン(1mmの1/100)です.1試料あたり少なくとも30粒子を計測します.
●さらに高倍率下で飛跡の長さや結晶C軸からの角度を精度良く測定すると,試料が過去に経験した熱履歴を調べることができます.
こちらは250μm以下の燐灰石(アパタイト)の粒子(左)とその自発核分裂飛跡(右)です