隠岐地方のジオサイト

箕浦海岸の火山噴出物

隠岐郡隠岐の島町箕浦の海岸

  1. ベースサージ堆積物の露頭
  2. 久見層と重栖層の不整合露頭
  3. 軽石に富んだ火砕流堆積物
  4. 溶岩ドームと珪藻土がみえる

キーワード:重栖層 マグマ水蒸気爆発 ベースサージ 火砕流 溶岩ドーム


(執筆:山内靖喜)


国土地理院発行1:25000地形図[都万]より

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みどころ

 約600万年前頃(中新世末)の島後(どうご)西〜南部では流紋岩と粗面岩の溶岩が大量に噴出して、この地域を覆い尽くしました。これらの溶岩はその間に挟んでいる火砕岩や関連した貫入岩と共に重栖層(おもすそう)とよばれています。そして、この地域のほとんどの山々は重栖層の溶岩からできています。

 重栖層の溶岩はいろいろな地点から噴出したことが判っており、加茂と箕浦の間では流紋岩が噴出して、いくつかの溶岩ドームを作っております。溶岩ドームの噴出直前に、ここでは地下深くから地表に向かって上がってきた高温のマグマが地下水に出会い、地下水と反応してマグマ水蒸気爆発を起こしました。その結果、火山ガスと一緒に火山灰や軽石が高速で噴出され、地表に沿って高速(ときには秒速100m以上)で流れました。このような噴出物をベースサージといいます。酸性〜中性マグマの火山が大噴火すると、最初に大爆発してベースサージを噴出→火砕流の噴出→溶岩の噴出という順序で噴火活動が変わることが多いです。このような噴火による噴出物を箕浦港でみることができます。なお、火砕流とベースサージの違いは、流れの中の固体粒子とガスの割合で、火砕流は固体粒子の方が多く、ベースサージはガスが圧倒的に多いです。

写真1:ベースサージ堆積物(地点1) 写真2:突き刺さった火山弾(地点1)

 箕浦港西側堤防端の崖(地点1)は緩やかにうねった縞模様をもった灰色の厚い地層からできています(写真1)。この縞模様は細かな軽石、火山灰、岩石片などからできており、うねった縞模様では上の縞が下の縞を緩い角度で切っているのもみられます。このような縞模様は高速の流れで運ばれてきた堆積物の特徴で、この地層がベースサージ堆積物です。また、ごく僅かですが、ベースサージと同時に噴出した火山弾は、堆積しつつあるベースサージ堆積物の上に落ちてきて突き刺さっているのがみられます(写真2)。なお、ベースサージ堆積物に挟まれた降下火山灰層の数をしらべれば、爆発の回数を知ることができますが、この高い崖は登れないので調べられません。

 この崖の一番上には縞模様をもたない黄灰色ないし赤灰色の地層がみえます。この地層は港東側の崖の麓(地点3)で見ることができます。その前に、浄化施設横の崖の麓(地点2)で、このベースサージ堆積物が久見層の珪藻土を不整合に覆っているのが観察できます(写真3)。地点3では、黄灰色の地層(写真4)がありますが、これは主に細かな軽石が密集していて、径数cm以下の礫を含んでます。これは主に軽石からなる火砕流が堆積したものです。ベースサージに続いて火砕流が噴出したのです。

写真3:久見層の珪藻土を不整合に
 覆う火砕岩(地点2)
写真4:軽石流堆積物(地点3)

 箕浦北方のトンネル付近の低い場所には地点2と同じ久見層の珪藻土が厚く分布しており、珪藻土が採掘されています。しかし、トンネルの両側の山は流紋岩から作られています。すなわち、流紋岩が厚い珪藻土中に貫入して溶岩ドームをつくっているのです。その様子を、地点4から見ることができます(写真5)。

写真5:珪藻土中に貫入した流紋岩溶岩ドーム(地点4より南東方向をみる)


アクセス

隠岐郡隠岐の島町箕浦の海岸
西郷港西方約3kmの県道西郷都万五箇線の鳥越峠より南西に入る道を進むと箕浦に行く。


関連する情報

 島根地質百選の「津戸〜あいらんどパーク周辺」、「岸浜峠の黒曜石」、「代のフィーダー岩脈」、「福浦トンネル」でも重栖層の火山岩が見られます。


天然記念物などの指定情報

大山隠岐国立公園


地質学的な意義

 マグマが地下深くから上昇してくると、周りの圧力が下がるため、マグマ中の水が分離して、水蒸気の泡が作られます。マグマが上昇し続けると、水蒸気の泡は大変多くなり、沸騰したお湯のようになります。このとき、粘性度が高い流紋岩などのマグマでは水蒸気の泡が上方に逃げにくいため、マグマ中の圧力が急激に高くなって大爆発を起こすのです。同時に、沸騰したマグマは冷却しつつあるので、沸騰することでマグマは破片状になります。破片状のマグマが噴出されると、降下火砕物、火砕流あるいはベースサージになります。この箕浦海岸では、とりわけ見事なベースサージ堆積物を観察することができます。

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