隠岐地方のジオサイト

大峯山の大規模地すべり(崩壊)地形

島根県隠岐郡隠岐の島町西村付近

ダイナミックな地形変遷によって形成された地形を観察できます。

大峯山へは国道の(a), (b), (c), (d)の地点から進入することができます。

キーワード:大峰山玄武岩 向ヶ丘層 キャップロック 隆起 鮮新世


(執筆:村上 久)

地図
国土地理院発行1:25000地形図「隠岐北方」「布施」「西村」より

[みどころ | 交通 | 関連情報 | 指定 | 地質学的な意義]


みどころ

写真1

写真2,3

島後北部にある標高507.6mの大峯山は、周囲をいくつもの馬蹄形をした急崖が取り囲み、山頂部が平坦な変形ヒトデ形の尾根を持つ特異な山容をしています(地点1、写真1)。第二次世界大戦中は山頂の平坦地形を飛行場に擬して、模型の飛行機を置いていたそうですが、現在は牛の放牧場になっています。山頂は全ての木が北西から南東方向に大きく傾くほど強風が吹き荒れるため、3基の風力発電所が設置されています。また急崖の下方には、所々に急斜面を持つ丘陵地形が発達し、海岸や中村川および久見川に面した急崖に連続しています。この海岸部や河川の急崖部は中新世(2300万〜530万年前)の地層で出来ておりますが、丘陵部には礫・粘土・玄武岩からなる向ヶ丘層が分布し,前記の中新統を不整合に覆っています.さらに大峯山の山体は向ヶ丘層に整合に重なる玄武岩の溶岩(大峯山玄武岩) からなります.これらは鮮新世の前期(500~400万年前)に堆積・活動したものです。隠岐では約550万年前に大規模で激しいアルカリ岩の火山活動がありましたが、火山活動が終息すると島全体が急激に沈降し、浅い海の環境に変化しました。この海には海成の有機質粘土や、それ以前に活動した火山の山体崩壊物が礫や土石流堆積物として堆積(地点3、写真2)し、玄武岩も活動しました。やがて島は隆起に転ずるとともに浅い海が埋め立てられて、南東から北西に流れる川が形成されました。この川に沿って南東方向から流れてきた溶岩が堆積して出来たのが大峯山なのです。大峯山頂に至る道路の標高410m付近の法面(地点2、写真3)では河川成礫層や、それを覆う玄武岩溶岩を観察することができます。隆起後、それに伴う海岸部の浸食や谷の形成で斜面が不安定化し、大峯山玄武岩中に貯留された地下水の作用もあって、向ヶ丘層中の粘土層をすべり面とした大規模な地すべり(崩壊)が引き起こされました。この時の滑落崖が大峯山を取り囲む馬蹄形をした急崖で、大きいものは幅約2km、小さいものでも幅100m程度あります(地形図参照)。残った向ヶ丘層は、内部に滑りやすい粘土層を持ち、礫層や玄武岩を通して地下水が供給されるため、地すべりを生じやすいという特徴があることから地すべり防止区域(西村・伊後・山田)に指定されています。なお島後の地すべり地の多くは、大峰山と同じような過程を経て形成されました。また、粘土=不透水層、礫層・玄武岩溶岩=地下水供給体という水利特性を利用して大峰山周辺には多くの溜池が作られています。


アクセス

自家用車あるいはレンタカーを利用する場合は、西郷港から原田−中村経由で約30分、原田−郡経由で約45分。


関連する情報

隠岐の島町: http://www.town.okinoshima.shimane.jp/

近くに山陰島根ジオサイト100選「白島海岸 」「海苔田ノ鼻・鎧岩と淡水性貝化石」「久見のローソク岩」があります。


天然記念物などの指定情報

なし


地質学的な意義

大峯山と同様な地層構成は、大峯山北西の空峰山、南東の大満寺山、釜で見ることが出来ます。ここでの向ヶ丘層と玄武岩溶岩との境界標高は空峰山=250m、大峯山=350m、大満寺山=380m、釜=120mとなっており、隆起が一様でなく大満寺山付近を中心とした曲隆運動であったことが分かります。また、向ヶ丘層の中には過去に地すべりによって生じた強い変形の痕跡を至るところで観察することができます。大規模な地すべり(崩壊) がもたらす地形の変化は劇的ですが、これも浸食作用の1つの形態なのです。大峯山から眺望すると、地層の形成から消失までのダイナミックな変遷を充分に理解することが出来ます。

[隠岐地方のジオサイト一覧へ | 島根ジオサイト百選へ]